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鄙びた秘境に佇む温泉郷、日本昔話の風景と出会う旅

鄙びた秘境に佇む温泉郷、日本昔話の風景と出会う旅

2014年8月23日 • Travel

ゴツゴツとした岩肌が険しい北アスプルに比べると、なだらかな稜線を描く南アルプスの風景は女性的な美しさが魅力なのだと、山好きの人は言います。

「美女づくりの湯」として知られる寸又峡温泉は、そんな南アルプスの山麓に佇む、山間の鄙びた温泉郷。“山深い”という言葉はこういう場所を指して言うのだと納得の、まわりをぐるりとそびえ立つ山々に囲まれた秘境の地にあります。その風景を見て思い出したのは、子どものころに読んだ絵本「半日村」のこと。あまりにも山深くに位置するため日が半日しか当たらない村の話を描いた物語だったのを覚えています。

深い緑に覆われた山道を奥へ奥へと進み、ようやく辿り着くことができる寸又峡へのドライブでは、幾重にも重なる山々を縫って、山間にぽつりぽつりと点在する小さな山郷が実に印象的。民家の裏山にはこんもりと葉をつけた茶畑が段々畑となって広がり、木々の隙間に現れるのは見るからに恐ろしげな吊り橋の姿。目の前を過ぎていく風景は、日本昔話そのものの世界。そんな風景を眺めていると、あの昔話の数々は作り話なんかでなく、きっと本当にあった話が自然と語り告がれたのだろうな、と自然に(勝手に)昔話が紐解けたりするから不思議です。「かさこ地蔵」の挿絵のように、じっと路傍に佇むお地蔵さんと目があってしまったように思ったのは、気のせいでしょうか?

温泉郷の入り口から先には、ゆったりと蛇行しながら登山口へと続く山道に沿って、10軒ほどの温泉宿と数軒の食堂や土産物店がのんびりと並びます。寸又峡温泉は、ネオンサインや派手な看板の類いが一切ないことでも知られ、今も昔も旅人を迎えてくれるのは、ほっこりと灯る宿の明かりと、南アルプスの麓から沸き出す名湯だけ。なんとも潔い佇まいに心惹かれる旅人は、心ゆくまで白い湯の花舞う美人の湯に浸かり、溶けるほど長湯を楽しむためにここを訪れるのでしょう。お湯と地酒に酔いしれる温泉宿の夜。お天気ならば降るような星空を仰ぎながら、星見で一杯ともいけそうです。呑みすぎて、狸にだまされたりしても、なんとなく笑って許せてしまいそうな、何もかもをすっぽりと闇の中に飲み込んでしまいそうなほど、闇深い寸又峡の夜。

さて、奥大井と呼ばれるこの地域を訪ねるなら、大井川鉄道の存在もお忘れなく。奥深い渓谷に抱かれた山中を、SLやトロッコ列車とも呼ばれるアプト式鉄道が走る情景は、ひとつの美しい完璧な絵となって山の景色を彩ります。SLとトロッコ電車を乗り継いで寸又峡を訪ねる旅も、なかなか旅情を誘うもの。渓谷を渡り、いくつものトンネルを抜けて続く線路や小さな無人の駅には、子どもだけでなく大人もロマンを感じるようで、この辺りを訪れる観光客に大人気となっています。

東京からそう遠くない静岡で見つけた、山郷の自然を慈しむ時間。秘境は以外と身近にもあるものなのですね。トロッコ電車が走る線路の先は、忘れかけているとてつもなく大切な何かへと繋がっているのかもしれない……。ふと、そんな物語を紡ぎたくなる情景が待っているかもしれません。

  • 寸又峡温泉の位置

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