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西表島のジャングルの水辺に咲く一晩だけの夢の花、サガリバナ

西表島のジャングルの水辺に咲く一晩だけの夢の花、サガリバナ

2016年6月24日 • Travel

旧暦において水無月と呼ばれた6月は水の月。田んぼに水をひく時期であることからそうよばれたそうですが、現代では梅雨真っ只中のイメージ。一見、憂鬱な季節とも思われがちですが、夏至を迎えるこのころは紫陽花や蛍など風情あふれる季節の贈りものに満ちた月でもあるのはみなさんもご存知のとおり。

本州に先駆けて早くも本格的な盛夏に突入するこの時期の沖縄で、リピーターに特に人気が高く、またもっとも幻想的といえるのが西表島の“サガリバナ”ではないかと思います。

サガリバナは、熱帯や亜熱帯のマングローブや川沿いに自生し、夜に白から薄いピンク色の花を咲かせ、明け方陽が昇るとともに散ってしまう一夜花。夜闇に浮かび上がる白い花の美しさはそれだけで格別ですが、たった一晩だけの花という儚さがさらに人の心を惹きつけます。西表島ではサガリバナの開花は島の本格的な夏の始まりを告げる自然の風物詩で、古き時代、それは島人たちだけに見ることが許された島の贈り物であったのだと思います。現代では島を訪れる旅人たちにとってもまた、“一目この目にしたい”と願わずにいられない憧れの花。

マングローブの川をたどりジャングルの奥地で出会う、一夜だけの花の生命

西表島のジャングルの水辺に咲く一晩だけの夢の花、サガリバナ

サガリバナを見るためには、夜明け前まだ暗いうちにジャングルの奥を目指します。河口の入り口からカヤックに乗り、夜闇につつまれたジャングルの川を静かにそして力強くオールを漕ぎ続けていくと、やがてどこからともなく甘い芳香が漂ってくるのです。

それはすぐ近くにサガリバナの花が開いている証拠で、芳香に誘われるようカヤックを水面に這わせば、うっすらと明るくなり始めたジャングルの川岸に白くぼぅっと浮かび上がるサバリバナの花を見つけるでしょう。

耳を澄ませば、どこかで“ぽつん”と水面に落ちるサガリバナの花の音がまだ静寂につつまれた明け方のジャングルに響きます。“ぽつん”“ぽつん”……。静かに存在感を告げる音の正体を求めてジャングルの川を探索しているうちに、いつしかマングローブの川には一夜の生命を終えたサバリバナの花々が浮かび、辺り一面は甘くむせるような芳香につつまれます。

はじめは控えめに遠くで鳴いていた朝を告げる鳥たちの鳴き声が、やがて大合唱となりジャングル一帯にこだまするころ、マングローブの川は生命を終えたサガリバナで埋め尽くされ、花々が水の流れに乗ってゆっくりと海へと還っていく光景と出会うのです。それは、島人の言葉どおりこの世のものとは思えない幻想的な美しさで、例えるならば、まるで天女の棲む隠れ家に迷いこんでしまったような、または、ジャングルの奥地の秘境に存在する桃源郷への入り口を訪ねてしまったような、なんとも不思議な空気に包まれたまさに“夢うつつ”の世界なのです。

西表島のジャングルの水辺に咲く一晩だけの夢の花、サガリバナ

サガリバナ自体は6月末くらいから夏の間中花をつけるのですが、この夢うつつの桃源郷の世界の扉が開くのは、梅雨開けの夏の始まりのほんの限られた期間だけ。というのも、マングローブの川に浮かぶサガリバナを見るためには、潮の満ち引きが大きく関係するからです。島の自然を熟知する島人は潮の満ち引きを利用し、サガリバナを探しに出かけますが、サガリバナが最も美しいのは明け方近くに満潮を迎える大潮の日とその前後だと言われています。台風がやってくるとサガリバナの花もすべて雨風で散ってしまうので、台風シーズン突入前の梅雨が開けたばかりの2週間ほどが勝負。6月末から7月頭にかけての大潮で、サガリバナの花が見ごろを迎えていればそれがその年のベストタイミングとなるのです。

一年のうちの夏の始まりのほんの数日だけ、私たち人間にその姿を許してくれる西表島のサガリバナ。ジャングルの奥深く、マングローブの川に浮かぶサガリバナの桃源郷を訪ねてみたくなったら、きっとそれがあなたにとって”夢うつつ”の世界を開けるタイミングなのだと思います。

  • 西表島の位置

Photo:Mayu Kobayashi


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