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女性管理職はなぜ増えない? 働く女性の心理と日本のカルチャー

女性管理職はなぜ増えない? 働く女性の心理と日本のカルチャー

2015年8月6日 • Wedding & Marriage, Work

【出典:Woman type

政府が「2020年までに、指導的地位に女性が占める割合を少なくとも30%程度にする」という目標を掲げたのは2003年のこと(男女共同参画推進本部決定)。だが、それから10年経った現在でも、日本における女性管理職の登用は進んでいない。内閣府が発表した『2013年度版 男女共同参画白書』によると、日本の女性管理職の比率は11.1%。アメリカの43%、フランスの38.7%、ノルウェーの34.4%などと比べても、まだまだ低い数字だ。今年4月には、安倍首相が「全上場企業において、まずは女性役員を1人は登用してもらいたい」と発言して注目を集めたが、これも現状が「2020年までに30%」という目標にはほど遠いことの裏返しと言える。

国を挙げて後押ししているはずなのに、なぜ日本では海外に遅れを取っているのか。もちろん、日本の女性が能力的に劣っているわけではない。企業を取材していてよく耳にするのは、「管理職への昇進を打診しても、本人が尻込みするケースが多い」という現状だ。どうして日本の女性たちはこのような思考に陥りがちなのか、そしてその壁を打破する方策はないのか。そのヒントを得るため、国内・国外双方の事情に詳しい外資系企業の人事担当者を訪ねることにした。

佐藤順子さんプロフィール
SAPジャパン株式会社
人事本部 人材開発 日本担当
佐藤順子さん

大学卒業後、日系大手機械メーカーに就職。パソコンのインストラクターや講習会の企画運営などを手がけた後、SAPジャパンに派遣社員として入社。その後、契約社員、正社員へと立場を変えながら、人材開発に携わっている。現在は新卒研修からリーダーシップ研修、ダイバーシティ研修まで、各種教育研修の企画運営や実行を担当。2人の子どもを育てるワーキングマザーでもある

海外の女性は仕事を続けること前提で自らの人生を設計している

「海外と日本で何が違うか。そうですね、一言で表すなら『周囲の理解度とカルチャー』ということになるでしょうか」

そう話すのは、SAPジャパンで人材開発を担当する佐藤順子さん。特に子どもを持つ女性が管理職として働くことに対して、いまだに日本では理解が深まっているとは言えない。仕事中に「子どもが熱を出したので早退したい」と言えば、同じチームのメンバーや顧客から「それでは困る」とクレームが出ることも容易に想像できる。「ところが海外では、同じ場面でも周囲の受け止め方がまったく違います。私がアメリカに出張した際、あるミーティングの主催者が女性のマネジャーだったのですが、始まる直前になって『旦那が子どもを迎えに行けなくなったから、後はよろしくね』と言って帰ってしまったんです。周囲も当然のように、『OK、行ってらっしゃい』と送り出してあげていて、日本とのギャップに驚いた覚えがあります」

この一例を見ても、「結婚や出産を経験しても、女性が働き続けるのは当たり前」というカルチャーが根付いていることが分かる。

「わたしの上司はシンガポールにいるのですが、彼女は働き続けるために、どうやって自分の生活をうまくコントロールしていくかを常に考えています。仕事を辞める選択肢はまったくないのです」

ただ、海外の女性管理職たちも、決して周囲の寛容さに甘えて仕事をおざなりにしているわけではない。むしろ日本以上に実力主義社会なので、成果を出せない管理職なら周囲の評価も得られない。佐藤さんは「彼女たちは、任せられる仕事はメンバーに与え、部下をうまく育成して、自分の負担を減らしつつもチームとしてきちんと成果を出している。海外で活躍する女性管理職たちは、人からサポートしてもらうのが上手だという印象ですね」と話す。

これこそが日本との大きな違いなのかもしれない。日本の女性の多くは、管理職を「責任が重いハードな仕事」「上司として何でも完璧にこなさなくてはいけないポジション」と思い込んでいるから、どうしても尻込みしてしまう。だが現実には、管理職になれば自分の裁量でチームの仕事を部下に割り振ることができるし、チーム全体のスケジュールを調整する権限もあるので、部下の立場にいたころよりも、かえって家事や育児と両立しやすくなるという側面もある。それに役職がつけば、単なる一社員だったころよりは、「時短制度を使いやすくしてほしい」などと会社に対して意見を言いやすくもなる。もし自分の会社のサポート制度が十分でなかった場合、その環境を自分の手で変えるチャンスも出てくるだろう。つまり管理職というキャリアは、決して女性にとってマイナスではなく、むしろ長く働き続けるためにはメリットも多いのだ。

「仕事も育児もいろいろな形があって良い」認め合うためにも女性同士のネットワーク強化が大切
2013年7月11日に開催された『SAPビジネスウーマンズネットワーク(BWN)』。現在、ドイツ、フランス、アメリカ、カナダ等14カ国で活動し、約3000名のメンバーを持つグローバルコミュニティ。BWNは、専門的な見識を共有し、社員同士が支援しあい、ダイバーシティーに関する課題について会社に影響を与え、さまざまな機会を提供する社員主導のネットワークだ。今回はゲストスピーカーとしてAPJ Talent AcquisitionのVice PresidentであるFinuala Hattoriさんを迎え、女性がキャリアを成功させるポイントについての講演を行った

2013年7月11日に開催された『SAPビジネスウーマンズネットワーク(BWN)』。現在、ドイツ、フランス、アメリカ、カナダ等14カ国で活動し、約3000名のメンバーを持つグローバルコミュニティ。BWNは、専門的な見識を共有し、社員同士が支援しあい、ダイバーシティーに関する課題について会社に影響を与え、さまざまな機会を提供する社員主導のネットワークだ。今回はゲストスピーカーとしてAPJ Talent AcquisitionのVice PresidentであるFinuala Hattoriさんを迎え、女性がキャリアを成功させるポイントについての講演を行った

だったら必要となるのは、女性たちのネガティブな思い込みを打破するような機会や仕組みではないか。そこでヒントになるのが、SAPが行っているさまざまな取り組みだ。多種多様なバックグラウンドを持つ女性たちが、イキイキと魅力的に働いている姿を広く共有することで、女性にも多様な働き方があるという理解を深めているという。

「当社で行っているグローバルの研修では、世界各国で活躍する女性たちのキャリアストーリーを紹介するビデオを見るというプログラムがあります。また、次世代のマネジメント候補を選抜し、さらに上のポジションにいる女性たちがメンターとなって、今後のキャリアについてアドバイスをする仕組みもあります」

さらに、女性社員同士がつながりを深めるためのネットワーク作りも大切にしている。管理職など高い役職を目指そうとした際にはさまざまな壁にぶつかるのは当然だ。そんな時に決して一人で悩みを抱え込むのではなく、同じ立場の女性たちが集まって、互いに相談できる環境を担保できることが重要となってくる。

「当社では『ビジネスウーマン・ネットワーク』という活動があり、日本でも現在56人の女性が登録しています。メンバーは定期的に集まってランチをしながら情報交換をしたり、キャリアについて考えるセッションを開催したりしています」

そのほかにも他社との連携で女性リーダー育成イベントのサポートも行っている。
こうして働く女性たちがそれぞれに持っている経験や知恵を共有する機会があれば、「もし自分が管理職になったらやっていけるだろうか」という不安が解消されやすい。「管理職でもこんなに自由な働き方ができるんだ!」「何か困ったら相談できる相手がいるんだ」と発想を柔軟にすることもできるだろう。

日本では、「母親は子どもが3歳になるまでそばにいたほうがいい」などといった小さな子どもを持つ母親が働くことに対してのネガティブな見方もまだまだ根強い。そして女性たちもそれに縛られがちなところがある。しかし、国内外を含めて女性の多様な働き方の事例を知り、「仕事も育児もいろいろなケースがあっていいのだ」と考えられるようになれば、管理職への心理的なハードルも低くなるのではないだろうか。

佐藤順子さんしかしどんな会社にもこのように女性管理職を育てたり、女性の多様な働き方を後押しする体制があるとは限らない。環境に恵まれない場合には、自発的に社内の同じようなポジションや働き方をしている女性たちに声を掛けて、悩みや現在の働き方を共有したりと、女性同士がまずは積極的にコミュニケーションを図っていくことも必要だろう。管理職への見えない壁を突破するきっかけになるはずだ。

最後に人事の立場から、佐藤さんがこんなアドバイスを送ってくれた。

「チャンスがあるなら、管理織は一度経験しておいたほうが絶対にいいですよ。たとえ何らかの理由で管理職を降りることになっても、その人が管理職を経験したという事実は残る。その後のキャリアの選択肢は、管理職を経験していない人よりは確実に広がるのです。結婚・出産を経ても長く働き続けたいという女性こそ、管理職にチャレンジして、将来の選択肢を広げておくべきではないでしょうか」

「日本も海外のように女性がもっと働きやすい環境になればいいのに」と待っているだけでは、おそらく何も変わらない。まずは女性の側から意識や行動を変えていくことが、周囲の理解度や職場の雰囲気を変えることに必ずつながるはずだ。

取材・文/塚田有香 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)

※『Woman type』2013年11月の記事を転載しています。


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