MENU
曼珠沙華 天上から降る極楽の花

曼珠沙華 天上から降る極楽の花

2015年9月29日 • Travel

毎年、9月の連休は、過ぎていってしまう夏をまだしっかりと掌の中に握りしめ、捕まえておきたいような気持ちで、南伊豆へ行くのが習慣となっています。この時期、晴れた日の伊豆の空には、クッキリと鮮度を強調したクリアなブルーススカイ。陽が高く昇ると透明なブルーが何層にも重なり、夏の面影を大空いっぱいに大胆に滲ませてくれます。それは、まるでどこまでも水色の絵の具を海の水で溶いて重ねていったような透明で奥行きのある青い青い空。

曼珠沙華 天上から降る極楽の花

そんな水色が濃淡を重ねる風景の中に、ドキリとするような赤い彩を添えるのが曼珠沙華の花。秋のお彼岸のころに咲くことから「彼岸花」とか、「死人花」「地獄花」などとも呼ばれ、他にも「天蓋花」「幽霊花」「剃刀花」「狐花」、ユニークなところでは「狐のかんざし」「捨て子花」「はっかけばばあ」……等々、調べれば調べるほど異名が出てくるちょっと珍しい花でもあります。というのも、曼珠沙華は秋に芽を出すと、一日10センチという驚異的なスピートで成長し、50センチくらいの長さの茎になると先っぽにあの派手な花をパッと咲かせるのです。花は一週間くらいでしぼんでしまい茎も枯れてしまった後、ようやく球根から伸びた葉をいっぱいに茂らすことから、「葉見ず花見ず」という名で呼ぶ人もいます。

曼珠沙華の花は、サンスクリット語では「マンジュサカ」。仏教の経典にも記され、「天上の花」「赤い花」という意味を持つそうです。地上で何かおめでたいことがあると、この花が天上から降ると言われています。ちなみに、極楽に咲く花は4つしかなく、曼珠沙華の他はみなハスの花なんだそうな。

曼珠沙華 天上から降る極楽の花大人になった今、曼珠沙華の花をしみじみと美しいと愛でる自分がいることに気づいたのは、果たして何年前のことでしょうか。不思議なことに、彼花を美しいと想うその気持ちは年々増すようで、それは、毎年この季節がめぐるたびにこの花がかくも美しいという事実に自分が打ちのめされているような、そんな感覚をも覚えます。華美といえるほど派手な花なのに、花が咲くまでは気配を一切消し去る寡黙さ。かと思えば、一度花が開くと、毒々しいまでにあたり一面を赤く染め上げ、これでもかというくらいに存在感をアピールするその在り方が、私の中に“刹那”を掻き立てるのかもしれません。

曼珠沙華を漢字で記すと「想思華(サンシチョ)」。一本の茎を共有しながら、葉と花は決して出会うことがないため、互いに永遠に思い焦がれているという意味だそう。聞けば聞くほど、変化自在に人の心に意味合いを宿す花だと思いませんか。

毎年、9月のこの時期に南伊豆の里山に萌えるような赤を添える曼珠沙華。各地で災害をもたらした秋の長雨ですが、この花には幸いし、今年は一層見事に生命力をほとばしらせ野山を赤く染めあげています。都内近郊では埼玉県日高市の巾着田が曼珠沙華の名所として有名ですが、きっと近所の神社や野山のわきにもひょっこり赤い花をのぞかせているはず。一年に一度、その赤い花の持つ不思議なエネルギーに魅せられるのも悪くないなと思う今日このごろなのです。


« »